ODIOUS FIGURE

PBWシルバーレインより、工藤一弥(b02096)の…色々。

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入学前~月村との邂逅

なんとなく…少し前のことを思い出してた。
あの時、俺が見たのは、ガキの時分の俺自身だったんじゃないかな。


…だから、放っとけなかったんだろう。










蝉の声が響き渡る景色に赤い夕日が差し込み、街に影を落としていた。
夕闇が迫るこの時刻は、古来よりこの世とあの世の狭間とされてきた。
ちょうど朝の通勤ラッシュで人がごったがえすみたいに、見慣れぬ者どもが姿を見せる。
昔の人々は彼らを見るなり、こう言った。誰そ彼、と。

そんな、黄昏の語源と謂われを知ってか知らずか、人目を避けるように路地裏を選んで
リズミカルに走る少女の姿が在った。

肩のところで切り揃えた黒髪を揺らしながら、長細い袋を片手に一定の呼吸を繰り返す。
この近くの中学の夏服姿のままだったが、どうやらランニングの最中であることが、
その速度と調子から見て取れる。
少女―――月村理代は、能力者として覚醒してからというもの、毎日のように自主トレを
して己を磨いていた。
なにしろ彼女の身に備わっていた異能の力は魔剣を振るう為のものだったらしく、
既に幾度かゴーストとの戦いも経て、我が身の力不足に危機感を抱いたのだろう。
周囲には剣に長けた者も戦いに精通した者も居なかった為、それならば自分なりに
鍛えようと思い立ったわけだ。

そんなわけで、その日も理代は走っていた。
今日は少しだけ遅いスタート。いつもならとっくに団地公園に着いて素振りしてる時間。
あまり遅くなると両親にも兄にも心配をかけてしまう。
焦りを感じた彼女は走り込む距離を間引く算段をした。要するに近道。

それが、いけなかった。

当時、理代が未だ知らなかった世界結界に因り、この時間帯に人気が全く無くなる一画。
夕日の隙間にぽつんとある、ビルの狭間の暗黒空間。
距離にしてほんの5メートルのその場所には、以前通りかかった時に花束が置かれていた。
『死人→ゴースト』のような図式は幼い理代の中でも既に形成されていたし、ここには
近寄らない方が良いと、自らにそう言い聞かせていた。
しかし、焦りは冷静な判断を奪い、彼女は自戒を、今まさに忘れていたのだ。
団地公園に最も近い抜け道こそがこの暗黒空間であり、理代は迷うことなく其処を
潜り抜けようと、足を踏み入れた。
忘れていたとは言え、また、少女の身に闇の力が宿るとは言え、やはり闇というものは
人を怖れさせる。

先刻より気持ちスピードを上げて、理代は一気に駆け抜けた。
否。駆け抜けようとしたが、幾ら走っても紅く焼けた向こうのアスファルトまで
辿り着けなかった。
本来かかる所要時間より7秒ほど闇の狭間を走り続けて気付き、途端に恐ろしくなった。
今になって全部思い出した。
いつの間にか、蝉の声はおろか、街中の音と言う音が止んでいた。

わーん、私のばかばか。ここはマズいってわかってたのに!

泣き出して兄に助けを求めようとかとも思ったが、世の中そんなに都合良くないことも、
もちろんわかってる。
理代は立ち止まると、意を決して布袋から素振り用の竹刀を取り出し、周囲を見渡した。

―――どさ。(ぐしゃり)

不意に背後で響いた衝撃と、如何とも形容し難い、音。
まるで、そう。人が潰されたらこんな音が鳴るに違いない。
残虐シーンが売り物の映画か何かで聞いたことのある不快な擬音を連想して、
理代は思った。
軽く飛び退きながら振り向き、竹刀を正眼に構える。

違う!潰されたんじゃなくて…!!

目の前には背広姿の中年男性が立っている。
但し、靴は履いておらず、その首と右腕が在らぬ方向にひしゃげており、度々
胸と接触する角度の頭部からは鎖が伸びていた。自縛霊である。
飛び降り自殺をする人は、その直前、靴を脱いでから飛ぶことも少なくない。
そんな雑学はこの場に置いてさしたる意味もないが、ともかく理代はそんな話を
思い出しながら、務めて冷静になろうとしていた。
この自縛霊の容姿は目を背けたくなるほど惨たらしく、これまでゴーストと戦った
ことが無ければ、理代も恐慌をきたしていただろう。
しかし、怯えてばかりは居られない。
どうやらゴーストを倒さなければこの場からは抜けられそうになく、少なくとも
理代にはそれを成す為の力が備わっているはずなのだから。

かつてニンゲンであっただろう背広姿のそれは、ぶら下がった頭部と腕をぶらぶらと
揺らしながら、理代を澱んだ瞳で恨めしそうに睨みつけていた。
そして、ひた、ひた、と湿った足音を微かに立てながらにじり寄って来る。

「―――っ!!」怖い。けど、これが初めてじゃない!

竦みそうになる足を堪えながら、我が身を奮い立たせる。

大丈夫。少しは慣れてる。
そう、今までゴーストに襲われたことを思い出しながら、理代は負けじと自縛霊を
睨み返し、掛け声と共に正面打ちを放った。
しかし、それまで緩慢な動きしか見せなかったゴーストは、その刹那体ごと真横に
スライドするように身をかわした。
すかさず追いかけるように横に薙いだが、今度は真後ろに避けられる。
袈裟斬り、逆袈裟、突きと続け様に繰り出したものの、全てがかわされてしまい、
動作に力を入れすぎた理代は、そのうち焦りも手伝って息が切れてしまった。
自縛霊はその隙を見逃さず、折れていない左手を上げて、ただスムーズに降ろした。
マズいと思った瞬間、飛び退く。

ずん。

理代の目の前のアスファルトが凹む。
一点を押し付けられた餅のように、上から何か重いものを落としたように窪んでいた。
少女が息を飲む中、自縛霊が何度も何度も腕を上下に振ると、今度は理代の前方周囲の
其処彼処に、鈍い音を立てながらより深い窪みが穿たれていく。

「嘘…、結構強い!」

このままじゃ近寄れない。近付いたところで、こちらが繰り出した攻撃はことごとく
避けられている。
絶望的な状況に、なけなしの気合と共に、膝が折れた。
ぺたりと座り込み、周りに圧し掛かる衝撃に慄きながらも、竹刀だけは両の手でしっかり
握り締めている。手は、震えていたが。

やだやだー!まだ死にたくないー!どうしよう!

とうとう半泣きになった理代は、やがて全身を震わせながら、死を身近に感じた。
自縛霊は左手を上下させながらも、ゆっくりと近寄ってきた。
避ける時は浮いてるのに、こちらに向かってくる時だけきちんと歩いてくる様子が、
その歪な姿も相俟って殊更滑稽に見える。
それはこの場に置いて、理代の恐怖を助長させるだけだった。
そして、徐々に距離を縮めてきた自縛霊の頭部が、揺れながら理代の顔の傍で、にやりと
嫌な笑いを浮かべ、またゆっくりと左手を振り上げる。

―――もう、ダメ!

自縛霊が腕を振り下ろす、その途中まで見たところで、理代は固く目を瞑る。



しかし、直後に彼女を襲ったのは頭上からの衝撃ではなく、誰かに肩を掴まれて
ふわりと真横に飛ぶような感覚だった。
ちょうど、この自縛霊が理代の攻撃をかわすような感じで。
続いて醜悪な苦しみの悲鳴。これは自縛霊のものだと直ぐにわかる。

「…あれ?」

肩はすぐに離された。
代わりに、固いソールの乾いた足音が前から響いてくる。
恐る恐る目を開けると、真っ先に見えたのは闇の深いこの場に置いてさえ、真っ白な
ジャケットの背中だった。
見上げれば真っ赤な髪。見下ろせば黒いデニムと白い靴。
自分への進路を遮るように伸ばされた左腕の袖先から窺える赤味がかった白い手は、
日本人にはあまり見られない特徴だ。
そしてその手に握られているのは、髪の色と同じ、真っ赤で刺々しい西洋剣。

「…立て。お前にも力があるんだろ」

剣に点描のインクを伸ばしたような闇を漂わせながら、少しだけ振り向いた顔は、やはり
日本人離れしていた。その双眸は透き通ったターコイズブルー。

うっわー超カッコイイ…!モデルさんかなぁ。ってこんな状況なのに何考えてるの、私!?

抑揚の少ない声音で語りかけてきた短い言葉の意味を理解するのに時間がかかったのは、
先ほどまでの危機感もどこ吹く風か、突如目の前に現れた剣士に見惚れていたせい。
震えは、いつの間にか止んでいた。
立てる。それどころか、何かもう絶対大丈夫な気がしてきた。根拠はないが。

「はい!」

立ち上がり、今度は怖れも迷いもない目でゴーストをきっと睨みつける。
自縛霊との距離は少し離れていた。
先ほどこの剣士に斬られたのだろうか、ぶら下がってた右腕の肘から先が、どこかに
消えている。
理代が立ち上がるのを確認すると、剣士―――一弥は腕を引き、半身に構え直す。

「側面に回り込むんだ」

彼は言い捨てるなり、即座に斬りかかった。
あんな状態でも右腕を奪われたことに怒りを覚えたのか、殊更に恨めしい顔で睨みつけ
ながら、それでも自縛霊は繰り出される斬撃をひょいひょいと巧みにかわしていく。

「早くしろ!」

怒声にも近い催促に、理代ははっとする。
ついぼんやりしてしまったのは、赤髪の剣士の太刀捌きに目を奪われたからだ。
自分の勢い任せな剣とは全く違う、荒々しくも鋭い太刀筋。
とても張り詰めていて、今にも弾けてしまいそうな―――。

…いけないいけない!今はゴーストをなんとかしなきゃ!

また止まりかけてから、理代は頭をぶんぶんと振って思い直した。
それから、言われた通り横に回り、双方の動きを捉えようと目で追う。

「あ!」

先ほどまでの身のこなしからは想像し難い大振りな正面打ちを放った剣士がよろめき、
片膝をつく。
当然ながら、自縛霊はその隙を見逃さずに左手を振り下ろした。

「今だ!思い切り叩きつけろ!」

叫んだ刹那、剣士は理代のちょうど反対側に飛び跳ねて、衝撃を避けた。
ゴーストが唯一の攻め手を撃ち終えた、その直後。
理代は敵の背面から、掛け声と共に闇の気を纏わせた竹刀の殴打を浴びせる。

「やああああああ!」
「おおおお!」

竹刀の腹が自縛霊の背中にインパクトしてひしゃげるのと、ほぼ同時に。
ずしゃり。そんな擬音が適切だろうか。
ゴーストの右肩から、鮮血のように真っ赤な筋が腰元まで閃き、その後を追うように
点描のインクを擦って伸ばしたような闇が続いて、消えた。
間髪入れずに響き渡る、男の悲鳴。
断末魔と共に霧散していく自縛霊の後に現れたのは、赤毛の剣士が袈裟切りを振り切り
佇む姿だった。
カ ッ コ イ イ !などと理代が瞳を輝かせていたことなど気付かぬまま―――。



「あ、ありがとうございました!お陰様で助かりました!」

―――外見もカッコイイけど、あの鮮やかな太刀筋!すっごく強い人だなぁ!!

内心では先ほどゴーストに止めを刺した一撃を反芻しながらも、理代は深々とお辞儀を
して礼を言う。
対する一弥はまるで空気が読めていないらしく、「ああ」とだけ応じて周囲を見回す。

気がつくと、そこはさっきのどこか歪なビルの影ではない、元通りの景色。
いつの間にか蝉の鳴き声や、帰路に着く子供達の笑い声など、普段はなんでもない
それらが、この上なく安心できるものに感じられた。
一弥はおもむろに歩き出すと、そのまま無言で表通りの方へと行ってしまった。
理代は、やはり黙って見送っていたが、一弥が角を曲がって姿を消したところで、あっと
小さな声をあげると、名前を聞けなかったことを悔やみ、慌てて後を追う。
しかし、表通りまで出ても、もうあの剣士の姿は見当たらなかった。
代わりに目の前に広がったのは、夕焼けで真っ赤に染まった大通り。
今、赤いものを目にすると、全て赤毛の剣士に結び付けてしまう少女は、密かに誓う。

もし万が一再会できたら…その時は絶対弟子入りしよう!



                ***

「師匠ー!!」

季節は巡り、再び夏。ここ銀誓館学園にとっては、初めて迎える夏。
その日、辺見ヶ原キャンパスに響き渡ったのは、他ならぬ月村理代が校内を駆け回り
ながら発した大声。
瞳の先に見据えるのは、あの時夕焼けに消えた背中。
その背中―――要するに工藤一弥が同じく校内を、逃げ回っていた。

「…参ったな」

物陰に隠れながら理代をやり過ごそうとする一弥は、それが口癖になりつつあった。

休み時間の度にその追走劇は繰り広げられ、毎回息を切らした一弥が男子トイレに
駆け込み、次の授業の始業ベルが鳴り響くまで続いたとか、そうでもなかったとか。

「弟子にしてください!!」

とは言え、その後数日、二人は毎回授業に遅れ、終いには生活指導員の雷が飛んだのは
言うまでも無い。



工藤一弥が、月村理代の願いを聞き入れて、現代日本において凡そ似つかわしくない、
師弟という奇妙な関係が築かれたのは、もう少し後の話。
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この記事に対するコメント


随分待たせてしまったが、なんとかアップ。
(執筆中、自前キャラを褒めるような表現をする度に
背後が苦しそうにうめいてたが…)

とにかく…最初はこんな感じだった。
【2007/05/07 00:50】 URL | 一弥 #g7.AOuZg [ 編集]


うわーーーい!
臨場感溢れる戦闘!
颯爽と現れる一弥師匠!
カ ッ コ イ イ !!

プレイング送った時に、背後さんちょっと困るかな~?とは思いましたが・・・(笑)>自キャラ褒め
だって一弥師匠かっこいいんだもーん!

うんうん、懐かしいですね~♪
【2007/05/11 11:33】 URL | 理代 #2M4XNDaw [ 編集]


今回は俺の視点から描写するわけにいかないから、こんな形になったが…
戦闘描写はもっと練り込むべきだったと反省してる。
かっこいいのかどうかは…自分じゃよくわからない、な。

…もう、一年も前のことになるのかな。
【2007/05/14 02:26】 URL | 一弥 #g7.AOuZg [ 編集]


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プロフィール

工藤一弥

Author:工藤一弥
ID:(b02096)

性別:男
職業:高校生(魔剣士)

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