ODIOUS FIGURE

PBWシルバーレインより、工藤一弥(b02096)の…色々。

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忌まわしい人(後編)

パジャマ姿のまま、夕暮れ時の路地裏を歩く。
子供の腕には重過ぎる、錆びた剣を両手で引きずるようにして。
時折すれ違う人は怪訝そうな瞳でこちらを窺い、次の瞬間ぎょっとして
(恐らくは俺の顔を見て)顔を背け、足早に立ち去る。

でも、そんなものに構ってる余裕なんかない。

その時の俺には、今の自分が人目にどう映るかなんて考えてなかった。
ただ、ありもしないはずの使命感?―――強迫観念ってやつだろうか。

なんだかそんなものに…そう。憑かれてたんだ。




程無くして件の自縛霊が出る場所に辿り着いた。

「出て来いよ!あいつみたいに、俺のことも引っ張ってみろ!」

息を切らしながら、それでもなんとか怒鳴りつけた。

そこは取り壊しが決まって久しい、古びたマンションの一棟。
当然、辺りには人気もなく、俺の声は空しく木霊する。
中に足を踏み入れ、歩きながら何度も霊に呼びかける。

『出る』部屋は知ってるはずなのに、真っ先にそこに行かなかったのは、
………多分、土壇場で怖くなったんだろうな。
恐怖と怒りと勢いだけが空回って、だから怒声を浴びせることしか
できなかった。

なんにせよ、このままじゃ埒があかない。
俺はやっと思い切って、問題の部屋の方に近付いたんだ。

そして、ドアの前で立ち止まること数秒。

固唾を飲んでドアノブを回そうとした瞬間、突然ドアが開いた。
中から出てきた生っ白い手に手を引かれて、俺は引きずり込まれた。
後でわかったことだが、どうやら自縛霊特有の特殊空間ってやつに
連れて行かれたらしい。


薄暗いが、見通せないほどじゃない。
よくある洋風の居間のようで、しかし不自然に広い。
見渡すと壁一面にタンスとも飾り棚とも判別のつき難い木製の家具類と、
その上にはびっしりと人形やぬいぐるみが並べられていた。
まるで、この空間にいる者を取り囲んで、見つめるように。
『部屋』の中には、俺の他に人影が二つ。
一人は人形を抱いた、年の頃は二十代後半と思しき女性の姿。
そして、もう一人は…先日行方不明になったクラスメイトだった。

―――やっぱり。もう殺されてた。…俺のせいだ!

「ぅうわああああああああああああ」

頭の中が真っ白になった。
さっきまであんなに重かったはずの剣を両手で振りかぶる。
奇声をあげた俺が最初に斬りかかったのはクラスメイトの方だった。
夢に出てきたそのままに、虚ろな瞳でこっちを見ていたそいつは、
斬られる瞬間、その顔を恐怖に歪めて呟いた。

「…ず、や……た…す……よ」

でも、構わず剣を振り下ろした。
クラスメイトは避けようともせず、あっさり両断され、霧散した。

一人切り伏せたところに間髪を居れず、何か見えない力を叩き付けられた。
たまらず弾き飛んだ俺が見たのは、血走った目を見開く女の自縛霊。
今飛んできたのは衝撃波みたいなものだろうか。
素直に認めるが、その瞬間、俺の中に芽生えたのは確かに殺意だった。
それも、ただ単純に殴られて頭にきたとか、そんな幼稚な感覚。
自縛霊を睨みつけて剣を引きずり駆け寄る。
クラスメイトみたいに、その女にも斬撃をくれてやろうと思ったものの、
今度は衝撃波が二発、同時に飛んできた。
さっきよりも遠くまで吹き飛ばされ、全身をしこたま打って倒れた。
痛みで身動きが取れなくなる。次に何かされたら、間違いなく死ぬ。

死を意識した途端、固く目を閉じ、身を強張らせてその刹那を待ち構えた。
我ながら諦めの早いガキで情けなくなる。
それはともかく、幾ら待っても何も起こらない。
じゃり、と頭の近くで小石を踏みしめるような音がした。
恐る恐る目を開けてみると、視界には俺の剣と見慣れない大人の革靴。
それから…銀の雨が降り注いでいるように見えた。
みるみるうちに、剣は錆が取れて本来の形を取り戻していく。
やがてそれは錆の色ではなく、本当に真っ赤で、茨を思わせる刺々しい
意匠が施された剣になった。
根元から刀身に沿って彫られた文字も、今ならくっきり見て取れる。
相変わらず、意味はわからないけれど。

「立ちたまえ」

横になった姿勢のまま剣に目を奪われていた俺は、革靴の人物の方、
つまり頭上を見上げた。
全身黒尽くめでつばの広い帽子を目深にかぶった男が立ち尽くしている。
丸い黒眼鏡をかけ、マフラーで口元を覆い隠しているその人は、
大振りなピッケルを片手に、こっちを見下ろしていた。
男はくぐもった声で淡々と続ける。

「誰に言われたわけでもなく、君は赤い剣を手に取り、戦いを選んだ。
そして軽率な判断で死に追いやった学友を、迷うことなく斬り捨てた」

―――それが何を意味するのか、身を以って知るがいい。
彼はその言葉を最後に、一歩後ろへ下がる。「戦え」ということらしい。

確かに、少しも躊躇わずに斬った。何も考えてないつもりで。
でも、本当は…全部無かったことにしたかっただけなのかも知れない。
そんなことしたって、俺の中の後悔や自責の念がなくなるわけないのに。

結局、これは、ただ単に危険な幽霊を消す、それだけが目的の行為。

身を起こそうと試みる。上体を起こすたび、片膝をつくたびに激痛が走る。
よろめきながら剣を杖にして、それでも立ち上がった。
…?どうやら剣は見た目が変わっただけじゃないみたいだ。
長剣としての威力が削がれるほどじゃないが、明らかにさっきより軽い。
意識ははっきりしてる。心穏やかとは程遠く、しかし取り乱すこともなく。
気持ちは変わらない。敵は目の前の女自縛霊。お前は許さない。

―――やってやるさ。

睨み付ける。
眼前で剣を水平に構えて、走る。
俺の身体から黒い影が湧き出し、刀身に纏わりついた。
それに構わず、いつか映画で観た騎士みたいに突きを繰り出す。
自縛霊は怯えたようなおどけたような奇妙な顔をすると、今までで一番
大きく目を開き、甲高い悲鳴と共に衝撃波を飛ばしてきた。



そこから先のことは、覚えてない。



目を覚ますと、見慣れた天井が見えた。…俺の部屋だ。
外は雨が降ってるのか、しとしとと音が響く。

「やはり、一弥君にきちんと説明するべきでは…」
「勝手なことを言わないで頂きたい!」
「しかし、いずれこうなることはわかっていたはずだ。そうでなければ、
何故『蔓薔薇の王』をあれほどわかりやすい場所に隠したのですか」
「…あの子の行く末を、主の御心に問うたまでです」
「ならば大いなる父もまた、一弥君の覚醒を望んでおられたのでしょう」
「………」
「…とにかく、今日はこれで。先の話ですが進学の件、御一考ください」

親父と誰かが、言い争ってた。
あの黒尽くめの男かと思ったが、視界の隅で養父と向かい合ってたのは、
どこにでも居るスーツ姿の中年男性だった。
彼は挨拶を最後に踵を返し、足早に部屋を出て行った。

「…父さん」

そういえば、自閉症になってからしばらくは、親父とすらまともに話した
覚えがない。
こんな風に呼んだのも、そもそも自分から声をかけるのも随分久し振り。

「一弥。起きていたんですね」

いつも通りの穏やかな笑みを浮かべ、話があります、と溜息混じりに言う。

「一弥。心して聞きなさい」

心して…ってのが、親父が何か大事な話をする時の決まり文句だ。

「まず…今度の一連の出来事に関して、私から咎を責めることはありません」


何故ならば、貴方が他者との触れ合いを拒むようになったのも、幼き日より
この世ならざる存在…ゴーストを見分ける力を持ち、やがてそれを討つ為に
力を欲するようになったのも、偏に私の力不足に因るものだからです。
…たとえ仮初めでも、ひとりの親としてこうなって欲しくはなかった。
普通の子供達と同じように、健やかに人間らしい人生を歩んで欲しかった。
私は貴方のことを導くことができず、ついにその運命を主に委ねました。
あの剣があんな場所に隠されていたのはその為です。
残念なことに…貴方は剣を見つけ出してしまいましたね。


寂しそうに微笑んだ親父は一旦言葉を区切り、それから真剣な顔で言った。
いつからそこにあるのか、ベッドの脇に立てかけられた赤い剣を手に取って。
剣は、革でできた鞘に納められていた。

「剣…『蔓薔薇の王』は、貴方と…もう二振りの剣と共に教会を訪れました」

生後数日で捨てられていた俺の傍らに置いてあったのだと、親父は言った。
そして、それ以上のことはまだ話せない、とも。
俺は黙って聞きながら、あんなものがあと二本もあるのか、とか考えてた。
隠し事は気になったものの、話せないと言い出したら絶対に口を割らない。
そういう人だった。

「ひとつ言えるのは、貴方は生まれた時から…いいえ、恐らくこの世に生を
受けるより以前から、この剣をあてがわれていたということです」

―――。つまり。俺の生みの親は最初から俺に幽霊退治をさせる気だった。
だったら。どうして捨てた。そのつもりなら。自分で育てればいいだろう。
全く。生みの親は親父に押し付けて。親父は神様に押し付けて。その挙句。
神様は俺に剣をくれた。結局。蔓薔薇の王は最初から俺のものだったんだ。

「この剣が何をする為のものかは、もう説明する必要もないでしょう。
…もし取り上げて隠しても、貴方はすぐに探し出してしまうのでしょうね」

親父は見るからに嘆かわしい目で、俺に剣を差し出す。
当たり前だ。これは俺のなんだから。

「…一弥?」

無言のまま受け取った俺は、剣を両腕で抱き抱えるようにして俯いた。
それから…また眠ってしまったんだろう。記憶がぷっつり途切れてるから。
この時から、親父との仲がとことん悪くなって。
別に親父が嫌いなわけじゃないんだ。育ててくれて感謝もしてるさ。
ただ、どうしても信じることができなかった。家族だって思えなかった。



…ああ、その夜見た夢は、今でもよく覚えてる。

白いフードをかぶった女が、赤ん坊の俺を抱き抱えて、にっこり笑うんだ。
顔ははっきり見えないけど、すごく嬉しそうなのが伝わってくる。
抱かれてるのは俺だけじゃなくて…隣には俺と同じ顔の赤ん坊が眠ってて。

あれは、俺の願望か何かだろうか。それとも―――いや、なんでもない。


幾ら考えたって、わからないものはわからないんだ。そうだろ?


                               (終)
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この記事に対するコメント

散々先延ばしにした挙句に
考え無しに三篇に分けたってのが、ありありとわかる形になった。
つまり、後編だけがやたら長い。

…ともかく、これで昔話は終わりだ。
【2007/03/29 21:44】 URL | 一弥 #g7.AOuZg [ 編集]


Σ一弥師匠の謎が深まった!
黒ずくめの男の人、師匠の剣、そして見た夢・・・。
もしや双子!?
白いフードの女性ってなんかマリア様みたいですね・・・。

この謎が解ける日はいつか来るのかなぁ?
【2007/04/02 01:01】 URL | 理代 #2M4XNDaw [ 編集]


…どう、なんだろうな。

夢のことをわざわざ野暮ったく分析すれば、
女性→母親役が居なかったから、それを求めてる
双子?→人を遠ざけてた反動。身近な存在への飢え
…とか、こんな感じか?(他人事のよう)

実際のところは、なんとも言えない。
黒尽くめの男のことも、剣のことも。

何かあれば、またここに載せるかも知れない。
【2007/04/05 17:53】 URL | 一弥 #g7.AOuZg [ 編集]


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プロフィール

工藤一弥

Author:工藤一弥
ID:(b02096)

性別:男
職業:高校生(魔剣士)

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